ママさんDr.奮闘記 竹本裕子(13号2008年8月発行)

 北大眼科は年々女性医師が増え、とても華やかな雰囲気に変わりつつあります。現在医局には61名の医師が在籍していますが、そのうち21名が女性、一人以上のお子さんを持っている医師は9名(うち、常勤枠を外れて休局中または臨床研究医師として非常勤で勤務している医師が2名)です。女性医師希望という患者さんもいる昨今ですので、これはとてもよい傾向だと思います。その反面、働きながら妊娠、出産、子育てを行う際には予想外の問題もたくさん生じ、医局として女性医師を多く抱え、その就労環境を整えるのは大変なことです。今回は北大眼科ニュースの紙面を借りて、私の子育て奮闘ぶりをごらんいただき、今後の女性医師の子育てと仕事の両立を成り立たせるための環境整備にお役立ていただければと思います。
 まず、「予想外の問題その1」は妊娠初期に起こりました。妊娠早期の切迫早産疑いです。そういうことが起こるとは予想していなかったので、驚きました。私の場合は薬の内服で入院という大事には至らずに済みましたが、妊娠早期の切迫早産疑いは長期の入院を必要とすることもあります。また、妊娠初期は流産率も高いため、過度の労働は危険です。でも、どこまでが過度の労働なのか、これは個人差があるので判断が難しいところです。今は大学病院も医師一人に1台の細隙灯とボンノスコープが配置されていますので、日常診療時の運動量は少し軽減されています。患者さんのプライバシー保護のために行われた外来改修工事は、実は妊婦Drに優しい改修工事だったのかもしれません。また、つわり症状が重い先生は本当に大変そうです。私も外来・病棟冷蔵庫にお菓子を常備し、いつでも食べられるよう工夫していましたが、それくらいで症状を緩和できたのでラッキーだったと思っています。 
  「予想外その2」は妊娠後期。やはり切迫早産になり予定よりも2週間ほど早く産休に入らせていただき、ほかの先生方には大変ご迷惑をおかけしました。 「予想外その3」は出産後の子育ての大変さです。出産したら体も軽くなり、楽になると思っていたのですが、毎日24時間眼圧測定のように3時間ごとにたたき起こされる生活が10ヵ月ほど続きました。また、母体免疫がまだ切れないと安心しきっていた生後3ヵ月にはRSウイルス感染症により3週間の入院加療が必要となりました。乳幼児の入院には24時間の家族の付き添いが必要という病院が市内ではほとんどで、急遽仕事を休ませていただき、出張なども多くの先生に代行していただきました。そして1歳2ヵ月での再度の入院。前回よりも短く10日間ほどで退院できましたが、まさか毎年入院することになるとは・・・。このときも、いつ退院できるかのめどがなかなか立たず、外来、病棟業務だけでなく、出張も多くの先生に代行を急にお願いし大変ご迷惑をおかけしまし た。
  このように予想外のトラブルもありますが、H19年4月から院内保育園が開設され、以前に比べると仕事との両立はかなりしやすくなったと感じています。一番のメリットは職場から大変近いため送り迎えの時間が短くてすみ、一緒にいられる時間が少しでも増えたことです。また、同じように忙しく働いている女性医師のお子さんがほとんどの ため、土日の日直業務の際に預けたり、夜遅くにお迎えに行っても一人でぽつんと寂しそうに待っていることが少なく、お友達と遊びながら待っていられる点です。それでも、朝8時から夜8時頃までの約12時間子どもを預けて働いていることを話すと「えらいわねえ」と言いながらも哀れむような目で見られる方が多いように思います。確かに、もっと一緒にいてあげられる時間を増やせたら、と思う気持ちもあります。しかしその反面、たくさんの同世代のお友達と過ごすことで言葉や運動の発達は目覚しいですし、一緒にいられる時間をとても大事にすごすこともできています。そして、先にあげたような予想外のトラブルが起こったときに助けていただいた多くの先生方に少しでも新しい負担をかけないように、今は自分の臨床能力を磨きたいと思っています。
 今年出産予定の医師は5名いますし、今後も出産を経験する女性医師はますます増えると思いますが、予想外のトラブルに見舞われても何とか乗り切ろうとがんばっている女性医師たちをどうか温かく見守っていただきたいと思います。また、今後出産される女性医師の皆さんには出産前後に周りの先生方にご迷惑をかけたことを肝に銘じて、できる範囲で仕事との両立をかなえていただけたらと願っています。