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楽しい留学生活 〜カリフォルニア編〜 加瀬 諭(13号2008年8月発行)

はじめに
 大野先生のご紹介により、平成19年4月より南カリフォルニア大学、ドヘニー眼研究所へ留学させていただいております。ドヘニー眼研究所は、カリフォ ルニア州ロサンゼルス(LA)ダウンタウン近郊に位置しております。ロサンゼルスは天候が世界一良好とも言われる都市で、近郊のロングビーチでは一年のうち340日以上は晴れ、というクレイジーな環境です。冬でさえ日中気温が20度を超え、タイヤ交換の必要はありません。この好天を利用し、カリフォルニア州では全米の90%以上もの濃厚なワイン生産を果たしております。カリフォルニアは古くから禁酒法を解禁した地域であり、近くのスーパーやホームセンター、コンビニでも容易にビール、ワイン、ウイスキーを入手することができます。このように非常に恵まれた生活環境ではありますが、他方、浮浪者やギャングによる凶悪犯罪も多い地域です。このドヘニー眼研究所周囲1Kmほど離れますと怪しい地域になり、現地の人からは不用意に大学の周りを散歩しないように、と言われております。私はLAダウンタウン北方のパサデナ市に居住し、毎日、日本車で通勤しております。日中は研究所から数百メートル離れた屋外駐車場に、車を止めております。しかし大 学構内においても車上荒らしが時にあるので、午後4時を過ぎますと車を研究所の近くの地下駐車場へ毎日移動させております。拳銃を所持した車上荒らしに出くわすと対物の損害のみならず、こちらの命さえも脅かされますので、面倒でも毎日やらなくてはいけません。日本の大学では考えられない状況です。上述のように、私は昨年4月に独り寂しく単身で渡米しました。研究所の方には何度もEメールで私の利用する航空会社、便名、到着時間を連絡しましたが、誰もロサンゼルス国際空港までお迎えには来てくれませんでした。もの心がついてからは海外旅行は韓国しか行ったことがありませんでしたので、海外での電話のかけ方、通貨などすらよくわかりませんでした(一方、アルコールは入国当初からラベルを見れば、一目で内容がわかりました)。衣食住、生活環境を整えるのに約1ヶ月半かかりました。その間はほとんど実験をすることができませんでした。家族は6月に渡米しました。

Ryan教授の研究室
 私の在籍しておりますStephene J Ryan教授の教室では、網膜色素上皮細胞(RPE)の基礎研究、増殖硝子体網膜症や脈絡膜新生血管(CNV)、網膜新生血管の発生メカニズムを中心に研究を行っております。Ryan教授は非常に背が高く、声が奥深く、紳士的な指導者です。研究室には東洋人が多く、中国人、インド人が数名おります。私の直接の指導教官はDavid R Hinton教授で、写真後方中央の背の高いカナダ人がそうです。RPEを培養し、種々の成長因子で処理して、蛋白質やRNAの発現解析を行っております。RPEにおける血管新生因子VEGFの発現制御機構の解析も行っております。培養細胞で確認された現象を、今度はマウスにレーザー誘導CNVを作製し、解析しております。一方、マウス酸素誘導網膜症の作成も学んでおります。これはヒトでは未熟児網膜症、糖尿病網膜症のモデルとして有名です。このラボの問題点としては、実験を全て自分でしなくてはならないことです(当たり前のことかもしれませんが)。マウスの凍結未染色標本は、クリスというPhDの方が作ってくれます。一日でできることは限られており、実験がなかなか進まないですし、一つのプロジェクトを終結し、論文にするまでには相当時間がかかりそうです。
右がRyan教授
研究室のメンバーと。右から2番目が私。
ラオ先生の病理検討会
 大野先生のご紹介により、ドヘニー眼研究所の病理で有名なNarsing A Rao教授のもとで、週一回病理検討会にも出席させていただいております。木曜午前九時からラオ先生が顕微鏡の中心に座り、摘出眼球や結膜、眼窩、硝子体生検標本の病理所見を読み上げていきます。症例はロサンゼルスのみならず、カリフォルニア全土から集まってきます。ここでは毎月約100例の眼病理組織標本を診断しており、超人的な症例数です。時にはラオ先生が私に意見を尋ねてくることもあり、先生の言われることをただ聞き流すわけにいきません。信頼関係を築くのに約半年ほどかかり、現在はラオ先生の症例を用いて、RetinoblastomaやRetinocytomaの病理学的解析を並行して行っております。
Rao教授との病理検討会
英会話について
 当初はラオ先生が何か冗談を言っても、聞き取れずに独り私だけ浮く、ということがありました。今の会話の内容がわからなくても死ぬわけではない、と開き直りました。実際聞き取れた場合でも、外国人の笑いの閾値に疑問を感じることがあります。また現地の俗語で笑いと取ることもあるようで、それは我々留学生には不要な知識かと思います。学会で外国人の発表者が何かおもしろいことを言って周囲に笑いが起こることがありますが、自分が内容を把握できなかった場合でも、落胆することはありません。堂々としていたらよろしいかと思います。外国人の聴衆で、笑っていない人もその場にたくさんいます。逆にその場でニヤニヤしている日本人の聴衆がいたとしても、何がおかしかったのか?などはマナーとして聞かないようにしましょう。
おわりに
 北大眼科を代表する先生方が書かれた過去の「楽しい」留学生活の記事を読みますと、自分も若干同じ体験をしてみようかなと、思ったりもしました。しかし実際は、おそらく一年のほとんどが新しいデータの出ない不毛の日々です。大学院時代はデータや論文を投稿した際には、呑めや叫べや歌えやで節目節目を大事にしてきましたが、こちらでは帰りに居酒屋に寄って飲んで帰ることができません。私の場合、計1年半という限られた留学期間ですので、周囲の研究者のように2週間バケーションを取るとか、朝コーヒーを飲みながら英会話を楽しむなど時間的余裕すらありません。さらに論文を出せずにいる苦しさ、やりきれなさを思うと、私の留学生活がいつも「楽しい」ものではありません。残された期間、少しでも結果を残し、確たる新しい技術を習得し、みなさまと再会できたらと考えております。今後ともよろしくお願い申し上げます。(2008年2月)


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