瓢亭本店
2005年以来の7年ぶりの訪問。僕が夏に京都を訪れたときの楽しみは、この店での朝粥を食べること。通常のコースに比べるとお手頃な価格で「瓢亭 本店」の味と雰囲気が楽しめ、しかも午前8時から頂ける。庭に面した離れで頂く朝粥は、味も風情も日本最高の朝粥である。夏季に京都を訪れたときには必ず食べてみてほしい。入り口には草わらじが掛けられ、南禅寺を訪れる参拝客をもてなしていた頃そのままの往時が偲ばれる佇まい。
「瓢亭」は本店の他、隣りにカジュアルな別館があるが、やはりお勧めは本店である。本店の庭には3つの離れがあり、それぞれ互いに見えないような草庵になっている。最も大きい一番奥の離れだけは左右3つの部屋に分かれており、畳みの茶室とテーブル席の茶室、そして広間がある。従って、奥の離れだけは隣や奥の部屋の声が聞こえるが、入り口近くの2つは、お膳を運ぶ仲居さんの下駄の音と鳥の鳴き声だけが聞こえる完全個室となっている。静寂さを求めるなら手前の離れの方が良いだろう。但し、奥の離れ以外は座布団に座って寄りかかれないので、お年寄りや外国人はかなりつらいかも。一番奥の離れの向かいには400年前に建てられた草葺きの建物があり、現在はお手洗いとして使用されている。男性用の自動小便器の中には、小便の跳ねよけと臭いよけのための杉の葉が入れられていて面白い。自動小便器になる前からの古来の知恵らしいが、自動となってからもそのまま受け継がれているのは京都らしい。トイレも含め、離れの室内はどこも暗いので、本店の離れで食べるのなら、朝か昼の明るい時間帯に訪れるのをお勧めしたい。この日の昼のコースのお椀は、鱧とジュンサイのお吸い物。奇しくも昨日の「阪川」の椀と同じ素材。素材こそ「阪川」の方が上質であったが、出汁に関しては「京都吉兆」同様の深遠さを感じさせる旨味があった。この店の刺身で必ず出る明石鯛は本当に旨い。プリプリ感に加え、旨味があるのだ。刺身には土佐醤油、トマト醤油、塩がつくが、刺身をトマト醤油につけて食べると、塩とグルタミン酸の旨味だけがして、トマトの青臭さなどは感じられない。しかし、直接舐めてみると僅かにトマトを感じて不思議な味だ。この店を訪れていつも感心するのは料理を入れる器の素晴らしさ。そして、鮎は予め骨が抜いてあるなどの細かな配慮。それにしても、美味しい店は何を食べても美味しい。例え添えられた枝豆に至るまで隙が無いくらい美味しいのだ。しかも、伝統に裏打ちされた中にも斬新さを感じさせるような料理なのである。この「瓢亭」と「菊乃井本店」、「京都吉兆嵐山本店」の3店は同じ共通点を感じさせ、僕も認める真の3つ星店といえる。本店は空いていれば今回の僕のように1人でもOKだが、基本的には2人からとなっている。 (2012年7月)
左京区南禅寺草川町35
電話:075-771-4116
定休日:第2,第4火曜日(都合により変更となることも)
営業時間:11時~19時半(朝粥は8時~10時までの2時間)
予算:朝粥(7/1~8/31)6000円(12月~3/15うずら粥12100円)。昼:23000円~ 、夜27000円~
アクセス:。地下鉄東西線・蹴上駅の2番出口を出て左へ向かい、右に南禅寺を見ながら直進する。ウェスティン都ホテル前の信号を渡り、右に南禅寺を見ながらさらに細い仁王門通を進む。右に白壁を見ながら直進すると、右側に見える。南禅寺前の信号が見えたら、交番の角を左折する。地下鉄東西線蹴上駅より徒歩7分。
最寄りのランドマーク:南禅寺、ウェスティン都ホテル
お勧めポイント:伝統に裏打ちされた中にも斬新さを感じさせるような料理。日本最高峰の朝粥もお勧め。