2.味噌煮込みうどん、きしめん、コロ、蕎麦

“味噌煮込みうどん”を語る上で「山本屋」の名前は欠かすことができない。しかし、山本屋には「山本屋総本家」と「山本屋本店」の2つがある。店舗数など規模的にはほぼ同じだが、歴史的には山本屋総本家の方が大正14年創業と古く、こちらが元祖のようだ。ところで、愛知県外の方が“味噌煮込みうどん”を食べてまず驚くのはその味ではなく、麺の固さである。生ゆで?と感じるほど、妙に硬くて粉っぽい。これは、茹でる工程を省いて直接土鍋に生麺を入れて調理しているためで、讃岐うどんのモチモチしたコシとは異質のものと言える。また、土鍋でグツグツ煮込んだまま出てくるので、直接食べると火傷をしてしまうほど。地元の人は、土鍋の蓋を皿代わりに使って食べているが、蓋に蒸気抜きの穴が開いていないのはこのためだ。残った汁にご飯を入れ、“おじや”のようにして食べると更に美味しい。硬い“味噌煮込みうどん”は、どうしても汁が飛び易いため、エプロンの着用は必須である。“味噌煮込みうどん”に比べ、名古屋で“きしめん”専門店を看板に掲げている店は意外と少なく、うどん屋や蕎麦屋のメニューの一つとして扱われることが多い。これは、“きしめん”が家庭でも作れる身近な食べ物である所以なのか、人気のない日陰の食べ物である所以かは不明だ。タクシー運転手に聞くと、名古屋駅の新幹線乗り場の“きしめん“が、昔ながらの名古屋きしめんに最も近く、素朴で美味しいそうだ。

手打ちうどん 牛コロ 宮内

 この店の名物は店名通りの「牛コロ」。「コロ(香露)」とは、“うどん”や“きしめん”に香りの良い濃いめの汁(つゆ)をかけた中部地方の食べ物。元来、冷温どちらにも用いられたようが、現在では汁が冷たいものを指す。讃岐うどんで言う「ぶっかけ」の“あつひや(熱いうどんに冷たい汁)”に近い感じと考えれば分かりやすい。僕もかつて岐阜県多治見市の有名店に、わざわざ“コロうどん”だけを食べに行ったことがあるが、その店のコロは薬味だけのとてもシンプルなものだった。しかしこの店のコロは、まるで“すき焼き”と合体したかのように、甘めの汁に浸った平たいうどんにたっぷりの海苔や長ネギ、牛肉などがのっている。太さは一般的な“きしめん”よりやや太くて柔らかく、ペラペラした中にもモチモチとした独特の食感ある。その食感には、太さが微妙に均一ではないことも一役買っているようだ。汁がかなり甘いが難点だが、皿に添えられた擦りたての本わさびを少しずつ付けながら食べるとそれほど気にならなくなり、最後まで飽きずに食べられる。何故かコロに付いてくるグラスに入れられたビタミンドリンクが、B級テイストを更に盛り上げている。この店ではこの他、「味噌コロ」や「牛きしコロ」などの名古屋メシ系メニューもある。(臼井英晶)

北区大蔵町22-2   
電話:052-914-0144
定休日:日曜 
営業時間:平日:11時~15時、17時~20時、土曜:11時~15時 
予算:牛コロ750円 
アクセス:市営地下鉄・名城線「志賀本通駅」1番出口を出て逆方向へ進み、「つり堀」を過ぎた信号(スーパートーエー角)を左折。50mほど進むと右側にある。黒川駅から徒歩2分。 
最寄りのランドマーク:トーエー黒川店
お勧めポイント:コロうどんの専門店

蕎麦切り ふ~助

 東山公園にある人気の日本料理店「だいにんぐ芳(今回は落選)」を食べた帰りに、何となく気になって入ってみた。既に一通りのコースを食べた後だったので、試しに「ざるそば」を注文。運ばれてきた蕎麦を見ると「挽きぐるみ(全層粉)」のような色をしている。麺も太めで、一見すると田舎蕎麦。後で聞いた話では、挽きぐるみを二八で(小麦粉2:蕎麦粉8)で打っているとのこと。蕎麦は新蕎麦だったせいもあって、香り、甘みともに十分で、挽きぐるみのためか野趣あふれる味わい。しかし、蕎麦に比べるとつけ汁が弱く、もう少し辛ければなあと感じた。そのため、関東の蕎麦店に比べると多少物足りなさも感じるが、今回取材して落選した幾つかの有名蕎麦店よりも遙かに美味しかった。後で調べてみると、きしめんのような蕎麦「きしそば」がこの店の名物らしい。また、「天せいろ」や「天ぷら蕎麦」など“天もの”の類は一切無く、酒のつまみのメニューの中に、季節の野菜天ぷら(旬菜の天ぷら)があるだけという店主の姿勢も潔い。

千種区唐山町3-6   
電話:052-782-0006
定休日:火曜 
営業時間:11時半~14時、17時半~22時 
予算:ざるそば700円、きしそば800円 
アクセス:市営地下鉄・東山線「東山公園駅」4番出口を出て、すぐにスーパーの角を右折。「東山内科」を過ぎた交差点を右折すると右側に見える。東山公園駅から徒歩2分。 
最寄りのランドマーク:マクドナルド
お勧めポイント:香り高い実直な蕎麦

「山本屋総本家」と
   「山本屋本店」の味噌煮込みうどん

 2009年には「山本屋本店」の栄中央店と「山本屋総本家」の名鉄店を取材したが、今回の取材では、街中の店舗で食べログ最高得点の「山本屋本店・桜山店」と「山本屋総本家・タワーズ店」を取材。結果は、両店ともほぼ似たような味とメニューではあったが、やはり違いがあることが判明。日本酒は、両店とも愛知県の地酒(山本屋本店は「蓬莱泉」、「国盛」、「半田郷」、山本屋総本家は「ねのひ」、「神鶴」、「白老」)を置いていたが、うどん以外では、「山本屋総本家」は「おでん」や「板わさ」(いずれも17時以降より)といったクラシックなつまみしかなかった。これに対し、「山本屋本店」は「純系名古屋コーチンの焼鳥(ねぎま)」や「牡蠣オイル」、「青唐辛子のだし巻き玉子」、「本ズワイガニサラダ」、「半熟豆腐サラダ」などといったつまみ類が充実し、四万十産紅茶を使った「ロイヤルミルクティアイス」や「黒蜜濃厚バニラ」などのオシャレなデザートもあった。「山本屋本店」の方が、ちょっと一杯飲んで締めにうどんを食べる、といった楽しみ方ができそうである。今回は注文時に、“麺を柔らかめに!”と言って注文したが、それでも両店ともかなり硬く、麺自体の硬さには差を感じなかったが、「山本屋総本家」の方が麺に少し塩辛さを感じた。また、「山本屋本店」の方がダシの風味が強くバランスがいいが、「山本屋総本家」の方は、味噌の風味がダシの風味を上回っていて、後味に苦みを感じる。値段は「山本屋本店」の方がやや高めだが、初めから生卵が入っている点やおかわり自由な漬け物などがつくなど、サービス面が充実している。結論として、僕のお勧めは「山本屋本店」の方である。

【山本屋本店 桜山店】  
昭和区桜山町6-105-5 桜山交差点 昭和郵便局東    
電話:052-842-0975
定休日:無休 
営業時間:11時~22時 
予算:普通(味噌)煮込みうどん1050円、純系名古屋コーチン味噌煮込みうどん1785円 
アクセス:市営地下鉄・桜通線「桜山駅」2番出口を出ると「昭和郵便局」が見え、さらにその隣に「山本屋本家」と書いた大きな看板が見える。桜山駅から徒歩1分。 
最寄りのランドマーク:昭和郵便局、名古屋市立大病院 
お勧めポイント:名古屋味噌煮込みうどんのお勧め店 
他に名古屋駅近くでは、【山本屋本店 エスカ店(052-452-1889)】、【山本屋本店 名古屋駅前店(052-565-0278)】、【ルーセントタワー店(052-562-2531)】が、中心部では【栄中日ビル店(052-241-1939)】、【栄中央店(052-252-0253)】、【広小路伏見店(052-222-0253)】などがあるが、栄中央店がお勧め 。 

岩正(いわしょう) 手打ちうどん店

 少し寂しげな「筒井町商店街」の中にある知る人ぞ知る“味噌煮込みうどん”の店。今では珍しくなった木製の戸をガラガラと引いて中に入ると、ほとんど全てが地元客。そのせいか、他店に比べると多少値段も安め。この店では「まことや(今回は落選)」と同じように蓋がついてこないので、取り椀によそって食べる。味噌はコクがあってバランスが良く、後味に苦みを感じない。どちらかと言えば「山本屋本店」に近い味。そして、味噌煮込みうどんにはもれなくライスが付く。

東区筒井1-12-17   
電話:052-935-3929
定休日:火曜 
営業時間:11時~15時、17時~20時半 
予算:味噌煮込み(親子)700円 
アクセス:市営地下鉄・桜通線「車道駅」1番出口を出て「くるま寿し」の信号を右折。300mほど進むと左に筒井町商店街が見える。商店街に入ってすぐ右側。車道駅より徒歩5分。 
最寄りのランドマーク:くるま寿し、筒井小学校 
お勧めポイント:地元客御用達の知る人ぞ知る味噌煮込みうどん店

宮きしめん 竹三郎

 これまで取材した“名古屋きしめん”の中で、ナンバーワンに認定したい。グルメガイドやグルメ雑誌で、「きしめん よしだ」とよく比較されるが、両店のレベルにはかなりの開きがある。「宮きしめん」の方が出汁に遙かに深みがあり、麺もコシがあって美味しい。愛知県には熱田の本店の他、熱田の「伊兵衛」と「神宮店」、栄のラシックにある「竹三郎」などがある。中でもこの「竹三郎」が最もアクセスが良い。メニューには、“名古屋コーチンみそ煮込みきしめん”の他、“カレーきしめん”や“カルボナーラきしめん”などの創作的なものも多いが、僕のお勧めは、オーソドックスな“きしめん”。特に、“白えびかき揚げきしめん”や“宮きしめん”などがお勧め。

中区栄3-6-1 ラシック7階    
電話:052-259-6717
定休日:不定休 
営業時間:11時~22時半 
予算:白えびかき揚げきしめん850円、宮きしめん750円 
アクセス:市営地下鉄・東山線、名城線「栄駅」16番出口を出てすぐ。「名古屋三越栄店」の隣り。栄駅から徒歩1分。 
最寄りのランドマーク:名古屋三越栄店 
お勧めポイント:名古屋きしめんナンバーワンの店

平打ち麺 酒肴 きしや

 つい一杯飲みたくなるような明るくいい雰囲気の店内。看板の酒肴に偽りなく、酒の肴をつまみながら一杯飲んで、締めに“きしめん”かラーメンを食べてもらおうという趣向らしい。お酒は生のプレミアルモルツの他、焼酎などが充実しており、居酒屋としても良い部類に入る。つまみ類にもこだわっており、「カレー串カツ」、「鯛のとろろ昆布巻き」、「牛すじの煮込み」など美味しいものが目白押し。また、この店の“きしめん”は、表面が滑らかでコシも適度にあって美味しい。白と赤があるが、白は醤油を全く使わず、鰹節のベースに自家製昆布塩が加わり、赤はこれに特注のたまり醤油が加わっている。ラーメンは更に鶏ガラベースのスープが加わる。ぶっかけ風冷やしきしめん「ころ」の他、人気の「牛すじカレーきしめん」もあるが、カレーきしめんの汁は既製のカレーペーストのような後味がするのでお勧めできない。近くにある「地酒と旬の味 ききや」に行った後の2軒目として使えば、更に高い満足感が得られるであろう

千種区仲田2-17-7 池下タワーズ1F   
電話:052-752-7114
定休日:水曜 
営業時間:平日:17時半~23時半、土曜・日曜・祝日:11時~14時、17時半~21時半(但し、出汁がなくなり次第閉店) 
予算:赤・白きしめん750円、軍鶏きしめん(白)1300円、ころ(赤)800円 
アクセス:市営地下鉄・東山線「池下駅」1番出口を出て、「フジカラーパレットプラザ」へ向かう信号を渡る。そして錦通りを進み、「エイブル」、「コメダ珈琲店」を過ぎるとすぐ。池下駅から徒歩5分。 
最寄りのランドマーク:コメダ珈琲店 池下店 
お勧めポイント:美味しいきしめんの食べられるこだわりの居酒屋

川井屋本店

 特に期待しないで入った店だが、改めて“きしめん”の美味しさを感じさせてくれた。平麺ながら手打ちによるモッチリとした感触とコシは、他店では味わえないくらい良かった。関東風と関西風の中間くらいの色のつゆは、鰹の風味が強く、イノシン酸による酸味の余韻が心地いい。他店との比較のために今回は最もシンプルな「手打ちきしめん」を頂いたが、もう一度行くなら、大好きな「鴨なんばきしめん」にしたいと思った。見回してみると、来店客の半数は「デラックス味噌煮込みうどん」を注文していたが、実は味噌煮込みうどんも美味しいのかもしれない。すぐ近くの外堀通り沿いに“かき氷”で有名な「相生」があるので、帰りのデザートにでもいかが?

東区飯田町31    
電話:052-931-0474 
定休日:日曜、祝日 
営業時間:11時~14時、17時~20時 
予算:手打ちきしめん530円
アクセス:市営地下鉄・桜通線「高岳駅」2番出口を出て、歩道橋を過ぎた信号を左折。郵便局、2つ目の信号を過ぎ、さらに三菱系ガソリンスタンドを過ぎた外堀通りの信号を「加藤内科クリニック」側へ渡る。数十メートル先の右側に見える。高岳駅から徒歩5分。
最寄りのランドマーク:禅隆寺、名古屋逓信病院
お勧めポイント:モッチリとした美味しいきしめん