遺伝性網膜疾患 Inherited Retinal Disease
【責任医師】平岡 美紀
【担当医師】安藤 亮
網膜色素変性に代表される(遺伝性)網膜変性疾患は、ほとんどの症例で両眼に発症し、変性が広範囲にまた網膜深層に及ぶと重篤な視力障害をきたします。視力や視野障害を自覚する発症年齢も小児から壮年まで幅広く、視機能障害の程度も様々です。網膜色素変性はその特徴的な眼所見とERG、また視野のパターンから診断は難しくありません。しかし、その後の「医療」としては、福祉やロービジョンへの橋渡しが主なものとなっており、病態の進行抑制や発症予防には至っていません。
これら原発性の網膜疾患の治療が世界中の眼科医の悲願です。2000年にヒトゲノムの大部分が解読され、これで網膜変性の原因遺伝子が特定されてその治療法ができると期待されましたが、実際には網膜変性の原因遺伝子は300個以上あり、全ての網膜変性で遺伝子と疾患のペアが区分けできるのではないことがわかってきました。しかし疾患によっては遺伝子のバリアント(変異)から診断がつけられるようにもなりました。これまでこの遺伝子解析は「臨床研究」として行われ、その機関に人的また経済的負担がかかっています。
2023年に日本で初めて眼の疾患に対して遺伝子治療が承認されました。RPE65遺伝子に病的バリアントを持つ症例に、PRE65遺伝子のベクター、ルクスターナを網膜下に注入するというものです。この適応検索のための網羅的遺伝子解析、Prism Panelも同時期に保健収載されました。このPrism Panelはまず全国の12施設で開始され、北大病院眼科も参加しています(図)。そのため2024年度から「遺伝性網膜疾患外来」を開設し、遺伝解析の対象となる方に受診していただき、北大病院の遺伝子診療部と共に遺伝カウンセリングした後に遺伝子解析を行ないます。解析結果は学内の遺伝子診療部と、神戸市民病院を含む学外とも連携をとりながら検討しています。ルクスターナの適応検索という目的のためまだ適応は限定的ですが、今後適応が拡大していくことが望まれています。またPrism Panelの適応外の場合は浜松医大との共同研究で全エクソーム解析を行なっています。眼科で臨床遺伝専門医の資格があるのは未だ10数人ですが、道内では1人なのでその強みを活かして眼科領域の遺伝診療を進めていきたいと考えております。
この外来は遺伝子解析が必須というわけではないので、患者さんの相談にのるという一役もあります。患者さんには、まず網膜硝子体外来や黄斑外来にかかっていただき必要な検査をおこない、データを揃えた状態で当外来に来ていただいています。まだ始まったばかりの外来ですが、今後も発展するように努めてまいります。