遺伝性網膜疾患 Inherited Retinal Disease
【責任医師】平岡 美紀
【担当医師】安藤 亮


遺伝性網膜疾患(IRD)には黄斑ジストロフィーや網膜色素変性などの原発性網膜変性疾患があり、多くは両眼性かつ進行性の経過をたどります。疾患によって発症年齢の早いものや壮年期に診断されるものなど様々で、進行の速さも疾患によって違い、さらに個人差が見られるのもよく経験することです。変性が視細胞に及ぶと視力障害をきたし、また病変の範囲によっては視野狭窄も生じます。これまでIRDの診断には、それぞれの疾患ごとの特徴的な眼所見とERG、また視野のパターンから診断されてきました。しかし診断後の診療としては、視覚障害認定やロービジョン・ケアが主体で、疾患の進行抑制や発症予防、さらに障害された視細胞の再生などの積極的な治療はされていません。そのことが地域医療を担っている眼科医の中で、IRDの中の鑑別診断に消極的となる要因になっているのもの事実です。診断が確定しても特異的な治療がないため、遠方から大学病院を複数回受診することを負担に感じる面が、医師側と患者側それぞれにあることも理解できます。
IRDの進行抑制、発症予防、そして障害された視細胞の再生は、私たちを含め世界中の眼科医の悲願です。IRDはその特徴的な病態から遺伝子の病的変化が発症原因であることが約30年前から示唆されてきました。21世紀になって遺伝子解析の技術が飛躍的に発展し、原因遺伝子を特定することで診断が確定するケースが増えてきました。また原因遺伝子から各IRDの発症機序が解明されたものもあります。しかしこの遺伝子解析は「臨床研究」として行われ、その機関に人的、経済的負担がかかっていました。
2023年に日本で初めて眼疾患の遺伝子治療が承認され、RPE65遺伝子の病的バリアン トがある症例に、網膜下にPRE65遺伝子を導入するものです。この適応検索のための網羅的遺伝子解析、Prism Panelも保険収載されました。このPrism Panelは全国の12施設で開始され、北大病院眼科も参加しています。2024年度から「遺伝性網膜疾患外来」を開設し、IRDで遺伝子解析を検討されている方に受診していただき、北大病院の臨床遺伝子診療部と連携して遺伝子解析を行なっています。またPrism Panelの適応外の方には浜松医大との共同研究で全エクソーム解析を行なっています。道内の眼科で臨床遺伝診療を行なっているのは北大だけなので、他の施設からの紹介も積極的に受けていきたいと思っております。



