研究主任挨拶

 新たに眼細胞生物学視覚科学研究室(Laboratory of Ocular Cell Biology & Visual Science)の研究主任を拝命しました神田敦宏と申します。偶然にも新しい元号が始まった年と重なり、誠に光栄なことと存じております。これまで野田航介准教授が中心となり築き上げてきた研究室を村田美幸先生(研究副主任)と共に引き継ぐ形で、運営を任せて頂きました。

 これはまさに、「巨人の肩の上に立つ(standing on the shoulders of Giants)」と言う言葉が当てはまると思っております。意味としては、「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです」。つまり「先人の積み重ねた発見に基づいて何かを発見することを指す」ことです。日頃、PubMed(生命科学や生物医学に関する参考文献や要約を掲載するサイト)にて文献検索などを行いますが、それと同様にGoogle Scholarというサイトも使用します。そのGoogle Scholarを使用する際に必ず「巨人の肩の上に立つ」という言葉が出てき、これを見る度に毎回これまで行われてきた諸先輩方の下支えがあっての今があると感じております。

 研究室で目指すものは、“自ら探究心を持って行動する人材を育てること”です。ノーベル化学賞を受賞した野依良治先生が日本の教育に関するインタビューの中で次のように述べています。

 「創造性のある科学者に必要なのは、良い頭ではなく「強い地頭」。自問自答、自主学習ができないといけない。それから、感性と好奇心。これが不可欠です。そして新しいことに挑戦しなければいけない。今の大きな問題は、好奇心をもって自ら問う力、考える力、答える力。これらが落ちているということ。問題の全体像を掴み、自ら考えて、答えを得るというプロセスがなければ、知力を培うことは絶対に出来ません。」

 日常の業務をただ無機質に行うのではなく、そのなかで新たな発見(病状の違いなど)をして、自問自答し、それに対して基礎科学的なアプローチでの解決策(治療法開発・原因解明)に興味を持たれた先生方と研究を行い、一緒に色んな事を考えていければいいなと思っております。仕事を義務としてこなすと苦痛が伴いますが、何か意義を見つけそれを探究(研究)すると、楽しい?仕事になるかと思います。

 これまでの眼細胞生物学視覚科学研究室のアクティビティーを落とすことなく、臨床にフィードバック出来る基礎研究・臨床の疑問に答える基礎研究を行っていきたいと存じます。今後も引き続き、同門の先生方、医局の皆様、そして学外の多くの方々には温かくも厳しい、御指導御鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

 前・研究主任挨拶

 平成の時代が幕を閉じ、新しい元号の時代へと移りゆこうとしています。次年度は、いよいよ北大眼科の研究室である眼細胞生物学視覚科学研究室(Laboratory of Ocular Cell Biology & Visual Science) もその発足から10年目を迎えます。その節目にあたり、研究室設立とその変遷を振り返ります。

 「眼科学教室独自の施設と教育体制から、自分たちの手で博士課程修了者を輩出するため、基礎研究室の立ち上げを手伝ってもらいたい。」石田教授から研究主任を仰せつかった際のお言葉です。基礎研究にも精通した、将来の北大眼科の中核を担う人材を育成する計画、教室をあげての中長期的な事業でした。

 ところで、私自身は大学院を出ていない、いわゆる論博です。当時在籍していた大学で病理学教室に2年出向して学位をいただきました。思い返せば、出向先の恩師からは非常に興味深いテーマと丁寧なご指導をいただき、知的好奇心を大いに満たすことができた2年の研究員生活でした。しかし、その時間的制約の中で自分は論文作成と学位取得に重きを置いてしまい、自由な発想と深化した思索に基づいた研究は浅学非才も手伝って結局十分にはできませんでした。また、日頃からお忙しい他教室の先生方に実験を教えていただくことにも気が引け、常に少し遠慮していた2年間でした。大学院に行けていたらな、と思うことが今でも時折あります。物怖じせずにあの頃もっと色々教わっておけばよかったな、とも思います。与えて頂いた研究室設立というタスクは、そういう自分にとってはやりがいのある、大変意義の深い活動でした。

 振り返れば、研究室の立ち上げにはそれなりの困難がありました。資金的な問題、さまざまな研究機器を含めたインフラの整備、動物実験施設の確保など。当然のことですが、研究機器の多くは高額であり、その購入には大型の研究費が必要となります。しかし、研究を行なって論文業績がある程度蓄積し、対外的な評価が高まらないとそのような研究費は獲得できません。そういうパラドックスが当初続きました。今でこそ様々な学術賞や研究助成の栄誉が与えられることもありますが、当時の研究室・大学院はその土俵に上がることも難しくありました。そのような混沌とした状況から、研究室が少しずつ正のスパイラルを辿りながら現在の規模にまで発展できたのは、石田教授のご尽力はもとより、発足当初からのメンバーである神田敦宏講師と村田美幸助教、研究委員の先生方、研究室スタッフ、そして北大眼科研究室運営にご理解を下さった多くの方々のお力添えの賜物です。ここに篤く御礼を申し上げます。また、2013年には南場医局長とスタッフの先生方の温かいご理解もあり、書庫のあった場所に大学院生用のスペースが与えられました。その部屋で大学院生たちが困ったときに神田講師や村田助教に実験手法について教えてもらっている姿、研究について隣同士の席でわいわいと活発に話している姿を、前述のような経験の自分は羨ましい気持ちとともに喜んで見ています。そして、自分はそこに北大眼科がこの約10年をかけて作り上げてきた大学院の姿を見るのです。

 実験手技やプレゼンテーション、論文執筆の手法を体得すること、そしてそれらを駆使して業績を築き上げて行くことは大学院生の活動としてとても大切なことです。ただ、その結果のみに研究活動の価値を求めることは、業績は残っても人材育成には結びつかない結果となり、仏作って魂入れずの教育となる懸念があります。一方で、研究という知的活動の面白さを自身で見いだすこと、そして活動の中でその意義づけを自身でおこなっていくことは、将来独立した研究者としてさらに若い世代を巻き込んでいく求心力、「学問を楽しむ心」を持つためにとても大切なことです。ただ、それだけでは対外的に認められず、結果を蓄積できない研究は前述の様な経済的な理由などのため活動停止をいつか余儀なくされます。この両者は共に形成されることで相乗的な効果を発揮するものであり、その双方を学ぶことができる環境を現在の研究室・大学院は有していると、先の大学院生たちの姿を見て思うのです。これからも多くの若手が大学院に進学してくれることを、そしてそこで手にした学位とともに培った経験、形成した研究への熱意と楽しむ心を大切に灯らせながら、さらに大きな世界に挑戦してくれることを願っています。

 新しい元号となる2019年度、本研究室の研究主任に神田敦宏講師が就任されます。彼は研究室の立ち上げからずっと一緒に働き、そしてその屋台骨としてずっと支えて来てくれた人です。高い研究力と実行力、そして厚い人望と温かさを兼ね備えた彼の就任によって、眼細胞生物学視覚科学研究室はさらに大きく飛躍すると確信しています。神田新研究主任の一助となれるよう、私も研究委員の一員として引き続き研究室・大学院の運営に寄与していきたいと思っています。新体制となる研究室の今後の活動に変わらぬご支援をどうぞよろしくお願い致します。