臨床研究主任挨拶

 

20194月、北大眼科に臨床研究委員会が発足致しました。メンバーは6名。木嶋理紀先生(緑内障)、齋藤理幸先生(網膜硝子体)、田川義晃先生(角膜・ドライアイ)と私(主任)の4名がコアメンバー、石田晋教授と南場研一医局長(ぶどう膜)がオブザーバーを務める、北大眼科の臨床研究を推進するための新しいorganizing committee です。

2012年に我が国で生じた臨床研究の不適正事案を受けて、「臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」が設置されました。同検討会は信頼回復のためには既存の倫理指針の遵守だけでは十分でないと判断し、それを受けて国会で新しい具体的な規制や対策についての審議が行われました。

その結果が、20184月から施行された臨床研究法です。同法によって、臨床研究の実施基準が厳格に定められ、行政の監視・調査権限が強化されました。また、未承認・適応外の医薬品等の臨床研究、あるいは製薬企業等から資金提供を受けた医薬品等の臨床研究は「特定臨床研究」と別途定められ、その実行に関してさらなる法整備が行われました。必然として臨床研究を行うプロセスは複雑化し、我が国の臨床研究はその進もうとする鼻先を叩かれて現在も失速しています。諸外国は喜んでいることでしょう。アジアにおける我が国の研究競争力低下がマスコミによって頻繁に指摘され、それに追われる各学会の重鎮が改善策についてあれこれ議論したこの時期に、とても残念な出来事でした。必要以上に過敏に反応するマスコミに操縦される我が国の、そして互いに圧力を掛け合って他の減速を良しとする我が国の悪い面が出たと感じます。

さて、起きてしまったことに不平を述べても仕方ありません。この出来事に対して私たち現場ができる努力とは一体何かを考えよう、というのが臨床研究委員会の発足理由です。ただでさえ面倒と思われて若い先生たちに敬遠されがちな研究、学会発表、論文報告。その土壌生成に拍車をかけた今回の出来事の後、若い先生たちが臨床研究をやってみたいと感じるために必要なことは一体何でしょう。4名のコアメンバーで話し合い、至った結論は「臨床研究を円滑に進められ、そしてそれを学術として楽しめる北大眼科の環境づくり」でした。本来、研究活動は楽しいもののはずです。楽しくないのは、それに付随する面倒な作業のためでしょう。また、私たちが研究活動をするのは論文数を増やしたり、インパクトファクターをかせいだり、売名をすることが目的ではないはずです。学術的に興味を持ったこと、サイエンスとして明らかにしたいことを、研究者として調べた結果を世に知ってもらうため、そしてそれが楽しいと思うが故です。大学を含めたアカデミアが提供すべき環境、それは効率よく学術活動ができ、知的欲求が満たせる活動の場です。

まず臨床研究委員会の最初の取り組みとして、「臨床研究を円滑に進められる環境づくり」を行うこととしました。コアメンバーの木嶋理紀先生には臨床研究を開始するにあたって最初の難関である各種申請方法の、齋藤理幸先生にはわかりにくい医療情報検索や医療統計の簡便な方法の、そして田川義晃先生には特定臨床研究を開始するにあたって避けられない膨大な書類作成法の、それぞれ相談窓口になってもらいました。若い先生たちがわからないことがあった時に立ち止まらず、相談できる委員会としたいと4人で考えています。そして、ぜひ北大眼科全体の臨床研究を盛り上げたいと考えています。

最後に、北大眼科の若い先生たち、ORT さんにメッセージです。日々臨床を行う中ではたと気がついた学術的な興味、眼科学の発展に大切と思われるテーマなど、折角思いついたのに面倒だからといって手を上げずに黙ってしまうのは本当にもったいないことです。あなたのアイデアはもしかすると今の眼科診療を変える力を持っているかもしれません。臨床研究委員会もまだ手探りですが、ぜひ医局で一緒にシステムを構築して臨床研究を楽しみましょう。

医局スタッフの先生方、同門の先生方、北大眼科の臨床研究推進に温かいお力添えとご指導をどうぞよろしくお願い致します。