加瀬 諭

 このたび、網膜硝子体の臨床プログラムに参加し、その体験談を発表する機会を得ましたので、述べさせていただきます。私は大学医学部を卒業後、病理の大学院を修了し、北大眼科に入局しました。外科的には様々な先生のご指導をいただき白内障手術、外眼部手術および眼腫瘍の診療・研究を中心に行って来ました。しかし、専門である眼腫瘍は稀な疾患であり、日々の診療で遭遇する機会が乏しく、究極のサブスペシャリティと考えますが、これだけでは北海道で眼科医として食べていくのは困難と思われました。そこで、もう一つ専門を持って、common disease を治療できるようになるべく、網膜硝子体を志願することにしました。しかし留学から帰国してしばらく、大学病院で勤務しておりましたが、網膜硝子体手術を執刀することはありませんでした。その理由は、網膜硝子体指導医の齋藤航先生より、白内障手術の腕前が網膜硝子体手術を行うには不十分なためとのことでした。そこで、白内障・網膜硝子体手術件数の多い手稲渓仁会病院へ2012年4月より3年間出向させていただきました。出向中は、横井匡彦医師、勝田聡医師、高橋光生医師のご指導を賜り、幸いにも多くの白内障手術のみならず網膜硝子体手術を担当させていただく機会を得ました。実際、common disease である網膜前膜、黄斑円孔、裂孔原性網膜剝離、増殖糖尿病網膜症を始め、眼球破裂、眼内炎、テルソン症候群、増殖硝子体網膜症などの比較的稀な難治性疾患も執刀の機会を得、長時間の手術にもかかわらず、暖かいご指導を賜りました。

 2015年4月から、齋藤航先生のご指導の元、北大病院で網膜硝子体外来にて臨床の仕事をしております。 現在は手稲ではあまり経験する事のなかった近視性や緑内障性網膜分離症、von Hippel Lindow 病の網膜血管腫、アトピー性皮膚炎患者のIOL 落下の硝子体手術なども担当させてい ただきました。

 齋藤航先生とは2012年以前の私の北大勤務時代とは異なり、より高いレベルでの症例のディスカッションができている気がしております。今年の臨床眼科学会では、齋藤航先生と私で行った10例の難治性黄斑円孔に対す るinverted ILM flap 法の手術成績をまとめ報告しました。 私がこのような発表を行うことは3年前では考えられなかったことです。ご指導いただいた齋藤航先生に改めて、厚く御礼申し上げます。しかしながら、まだまだ網膜硝子体疾患の診断、治療のレベルを上げるべく精進が必須であることは言うまでもありません。今後とも引き続きご指導賜りますよう、よろしくお願いします。 

指導医から一言: 齋藤 航

 彼は謙遜しておりますが、3年間手稲渓仁会病院で、横井先生を初めとする硝子体surgeonの薫陶を受け、多数の手術を行ったことで、自信がついたようです。今年4月に戻ってきてから、安定した手術をみせてくれています。今後は、難治例も含めもっと多くの症例を経験していき、北海道を代表するsurgeonになっていただければ嬉しいです。
 PS. 手稲に行く過程では納得いかないこともあったかもしれませんが、結果的にすごく成長したので、よかったと思っています。彼には、彼の将来を思った親心だったと思っていただければ幸いです。