モンゴル国でベーチェット病を調査する

北市伸義
北海道医療大学 眼科学系教授/国際ベーチェット病学会評議員

 ベーチェット病はその世界分布に特徴があり、北緯30°から45°のユーラシア大陸 / アフリカ大陸北部に多発するため、シルクロード病とも言われます。しかしユーラシア大陸内陸部はまだ十分な調査がされていません。

 2016年5月にモンゴル国を調査しました。冬は氷点下40度以下になる極寒の地で、訪問時も吹雪で飛行機が遅延しました。日本からは堀江幸弘先生が同行してくれ、以前北大眼科で大学院博士課程を修了したアントン・レニコフ先生も、遠くスウェーデン・リンシュピン大学から現地で合流してくれました。

 モンゴルは1992年に、それまでの社会主義国家・モンゴル人民共和国から民主主義国家のモンゴル国として新たな歩みを始めました。人口は約300万人と少ないですが、大相撲に多くの力士を輩出する親日国です。若い世代では日本で博士課程を修了して学位を取得することも多く、他科では日本語が話せる医師も相当数いるようです。

 モンゴル国立医科大学へ向かい、眼科のバーサンクフー教授からモンゴルの眼科医療事情について説明を受けるとともに、付属病院や関連病院を案内していただきました。分子生物学のサランチュヤ教授との会談では、患者DNA を用いた今後の基礎研究の打ち合わせをしました。

 診察は英語が堪能なジャヴザンドラム医師が同席して行い、ベーチェット病患者の診察、検討、助言をおこないました。彼女はかつて横浜市大眼科で大野重昭先生のご指導を受けたことがあり、その際に感銘を受け、アメリカで経験を積んだのちに緑内障とぶどう膜炎の診療をしたいと祖国に戻りました。治療にステロイド薬は使えますが、免疫抑制薬や生物学的製剤はありません。他国と同様、ここでも正確な診断や十分な治療を受けられないまま失明している患者が多く見られます。

 

 今回の調査で、シルクロードに位置するモンゴルにベーチェット病患者が存在することを確認しました。モンゴル国立医大の学長、副学長先生とも会談し、今後の共同研究推進について基本合意するとともに大学間協定を調印する予定です。

 モンゴル系諸民族におけるベーチェット病の分子遺伝学的関連は全く不明ですが、今回収集したモンゴル人ベーチェット病患者の DNA 解析が順調に進んでおり、この訪問をきっかけに貴重な国際共同研究が動き出しました。モンゴルは貧しい国ですが、従来の畜産だけでなく、近年は金、銅、レアメタルなどの地下資源が開発され、急速な経済発展を遂げつつあります。

 一方で、中国方面からの大気汚染が深刻なうえ、地下水源は下水で汚染されているため、日本の基準に適する飲料水はほとんど入手できません。

 電力事情も悪く、診察中にも長時間停電します。しかし、現地医師の責任感、使命感は強く、我々北海道大学眼科のもつポテンシャルを生かすとともに、日本の諸先生が長年積み重ねてこられたものに泥を塗らぬよう、微力ながらさらに世界に貢献していかねばという思いをまた新たにしました。