Alpha-crystallinと眼疾患の関わり
alpha-crystallinはalphaAとalphaB-crystallinの2つのサブタイプがあります。
AlphaB-crystallinはsmall heat shockタンパクの一つで、細胞の生存、核分裂、細胞骨格の形成、アポトーシス回避などに関与します。alpha-crystallinは水晶体構成タンパクとして発見され、その後の研究で網膜や網膜色素上皮細胞にも存在することが判明しました。alpha-crystallinは酸化ストレス、眼内の虚血や病理的な新生血管が形成される環境下でその発現が誘導され、細胞生存の方向に寄与します。
alphaB-crystallinはその単独の作用に加え、分子シャペロンとしても重要な機能を担います。我々はドヒニー眼研究所へ留学した際に、alphaB-crystallinは糖尿病網膜症モデルにおける網膜の病理的血管新生、滲出型加齢黄斑変性モデルにおける脈絡膜新生血管の際に、alphaB-crystallinが分子シャペロンとして、血管新生因子VEGFと結合し、VEGFの生理活性を保持して病理的新生血管の促進に関与することを示してきました(Kase S, et al. Blood 2010)。さらに、そのシャペロンとしてVEGF結合の際に、alphaB-crystallinのセリン59リン酸化が重要な役割を果たすことも示しました。帰国後は大学院生の董震宇先生を指導し、ヒトの硝子体手術で採取されたPDR増殖膜を用いて、alphaB-crystallinが新生血管のVEGF発現内皮細胞と共発現することを示しました(Dong Z, Kase S, et al. Retina 2012)。さらに大学院生である董陽子先生を指導し、PDR増殖膜のVEGF発現新生血管においてalphaB-crystallinセリン59リン酸化が起こることも確認しました(Dong Y, Kase S, et al. Int J Ophthalmol 2016)。糖尿病刺激において、網膜色素上皮におけるalphaB-crystallinの発現を解析したところ、alphaB-crystallinは保護的に作用する可能性が示唆され、新生血管の内皮細胞とRPE細胞ではalphaB-crystallinの役割が異なる可能性が示唆されました(Wu D, Kase S, et al. In Vivo 2022)。
眼腫瘍、眼炎症疾患におけるalpha-crystallinの発現解析:
- 酸化ストレスに反応して培養網膜芽細胞腫細胞におけるα—クリスタリンの発現が誘導(Kase S, et al. Arch Ophthalmol 2009)
- 化学療法後に摘出された網膜芽細胞腫の組織でαB—クリスタリンが残存する腫瘍細胞に高発現(Kase S, et al. Br J Ophthalmol 2009)
- ヒト眼瞼脂腺癌において、αークリスタリンが腫瘍の細胞分裂を制御(Rigas PK, Kase S, et al. Eur J Ophthalmol 2009)
- ヒト結膜扁平上皮癌におけるαB―クリスタリンの発現上昇、セリン59リン酸化(Dong Z, Kase S, et al. Anticancer Res 2013)
- ヒト交感性眼炎の網膜において、αA-crystallinが高発現し、アポトーシス抵抗性に関与(Kase S, et al. Mol Med Report. 2012)