新明 康弘
さて、2020年度はいろいろな意味でいつもと異なる年になりました。元々、4月を境に外来体制を大きく変更しようと計画していたのですが、皆様ご存知のとおりの事態が生じました。しかしながら、振り返ってみると、一番混乱しそうな時期に、患者の新型コロナによる受診抑制が生じたため、まさに奇跡的なタイミングとなりました。もちろん、コロナ禍の一日でも早い終息を願って止みませんが、システムの切り替えが混乱なく、乗り切れたのは新型コロナの流行も一因かもしれません。また、これからは患者の滞在時間を短くし、待合室の混雑を避けるということが、Withコロナの時代の要請でもあります。新システムを通して、さらに改善していければよいと思っています。
「眼科外来、働き方改革」
以前より、問題視されていたのが、外来終了時間が18時を過ぎることでした。また、新患を担当する医師につく研修医が、専門外来に参加しないことも、いつか改善しなければと思っていました。その中で、温めてきたアイデアが、外来を専門外来中心に運営し、基本的に診察を午前中に集中することです。病院も、残業をなるべく減らす方向へ舵をきっていますので、会議も含め、17時に帰宅できるのが理想です。それらを踏まえて4月から、外来システムを大きく変更いたしました。
- 新患・一般再患を毎日受け入れる
昔の手術日が、週2日だった名残から、眼科外来では新患は月・水・金午前と決まっていました。これを毎日、新患を受け入れるようにすれば、一日当たりの新患数を減らすことができます。そうすると、検査などの混雑もなくなり、朝受診した患者が、夕方に帰っていくような光景は、無くなるはずです。また一般再患も曜日や担当医に関係なく受診できるシステムにしてしまえば、曜日による偏りが消えます。 - 専門外来が直接新患も診察する
大学に紹介されてくる患者さんは、主に専門外来を受診する目的が大半です。今までは、新患日をい ったん受診し、そこで次回の専門外来を予約する形をとっていましたが、もう少し効率よく診察を行うため、直接、専門外来の中で新患を受け入れることにしました。その分だけ、診察効率を上げるため、新患には研修医が必ず担当につくようにしました。これも、最近、新入医局員が安定して入局していることが大きいですね。 - 研修医の専門外来参加
以上により、専門外来チーフは、診察後に研修医に必要な指示をするだけで、効率のよい診療を行えます。研修医がなかなか専門外来に参加しない問題も、これで解決できました。今までは新患担当の医員から、いろいろ教わることが多かった研修医が、各専門外来で新患を直接自分でみることにより、各専門外来チーフから知識を吸収します。今のところ、カンファレンスなどを通じてみる限り、今年の研修医の知識レベルは、今までより明らかに高い気がしています。 - 専門外来中心の外来運営
専門外来の、大半は午前中の一般再来が終了したあとの診察室を使用していました。そうすると、どうしても開始時刻が14時ころになってしまいます。それでは、終了時間が18時過ぎになるのもやむを得ない話となってしまいます。今後も、眼科診療の専門化を考えていくと、専門外来患者が外来全体に占める割合は、毎年増加して行くことが予想されます。そうなると、専門外来を朝から開始したほうが後ろに余裕ができるはずです。そこでほとんどすべての専門外来を朝スタートに変えました。 - 一般再来の縮小化
専門外来を外来の主役と位置付けると、いままでの曜日ごとの一般再来はどうなるでしょう。大学の外来には一定のキャパシティがある以上、縮小していくしかありません。しかし、通院患者がいる以上、急に止めることもできません。こちらは、なるべく他院の受診を勧めながら、専門外来のなかで、診察の合間に同時進行で診察していくシステムにしました。しかし、医師の性善説(?)にのみ依存すると、専門外来のみ優先的に診察して、それ以外の患者が後回しにされる可能性もあります。そこで、一般再来に対して責任をもつ医師も専門外来とは別に、1~2名外来に出すことにしました。この外来のイメージは、他科受診との併診など、事情がある患者のために一般診療も行うとい ったところです。 - 外来コーディネーターの作成
先ほどの専門外来以外の患者の診察に対して責任を持つ医師を外来コーディネーターと名付けました。この役割は、自分自身で患者を診るほか、研修医に診察の指示を行い、時には専門外来に対しても、患者の診察を分担するよう要求できるものとしました。つまりは、その日の外来全体の運営に目配りをできる医師です。この役割は曜日ごとに当番の医員があたることになり、外来研修医からすると、困ったときにまず相談に乗ってもらう医師とも言えます。 - 新患カルテチェックを前向きに
以前より、新患については診療が終了したのち、新患担当医が集まって情報交換し、上級医が研修医に指導するという形をとっていましたが、今年度からは、この形を少し変えました。同じ話し合いの時間を持つなら、患者が受診する前の作戦タイムにしてはどうでしょう?
現在は新患もすべて予約制で、前日には紹介状などを見ることができるため、患者が受診する前日の夕方、外来コーディネーターを中心に研修医が集まり、予め翌日の受診時に必要な検査や、どの専門外来の医師に診察を回せばいいのか決めておきます。そうすれば前日の夜のうちに研修医は明日見る疾患について予習しておくこともできます。この時には、電子カルテの現病歴なども、紹介状から作製しておけば、翌日診察した医師は、カルテをみて追加すべき情報だけを入力すればよいので診察時間の短縮につながります。また検査指示も予め出ていますので、受診日には直ちに必要な検査も開始できます。備えあれば憂いなしですね。
「それによって何が変わったのか」
以上の新しいシステムにより、新患で来院した患者さんの病院滞在時間は、劇的に短縮されました。また、一部の曜日を除いて外来から15時頃までには、患者がほとんどいなくなるようになりました。そうすると、外来にでていた医師は、午後にも手術ができます。特に、臨時手術の場合、今までは外来の終了後に申し込みをしていて、スタートが夜遅くになっていたのが、15時にスタートして、17時までに終わることも可能となりました。クルズスやカンファレンスも17時よりも前に開始することができます。病院としても、時間外手当が削減でき、医師やコメディカルも、余裕のある働き方を実現できています。結果として医師全体が、外来に従事する時間が週に半日分削減された計算になっています。
「今後の課題は?」
このように、メリットが多い今回のシステムの改変ですが、元々、午前中に行っていた専門外来にと っては、あまり変化がないようです。また元々の新患日以外の曜日の外来では、研修医が専門外来を手伝うメリットも表に出にくいかもしれません。斜視・小児眼科など一部の専門外来は、まだ午後の診療を継続していますので、こちらも少しずつ変えていかなければと思っています。今のところ、最大の問題点は、医師の診療効率が上がったのに対して、視能訓練士の検査効率は、それほど変わりないため、診察のペースに検査が追い付いてこないことです。視力検査など、スペースを増やせればと思うのですが、ここは外来を建て替える日まで解決しなさそうです。ここは検査内容も見直ししながら、診療の効率化を図りたいと思っています。
もちろん、一日中、心行くまで患者を診察したいという医師もいますので、そこを止めたりする気はありません。しかし、他の医師が次々と、消えてゆく中で外来を続けるのはおそらく孤独でしょうし、そこを自覚すれば、もう少し働き方を見直すのではないかと期待しています。コメディカルの迷惑にならない範囲であれば、今のところ、このような行動についても静観する予定でいます。
新明康弘