包括同意書の作成
医療行為について、説明と同意を行うというのは 時代の流れですが、どこまで詳しく説明して、どこまでの行為について説明しなけばならないのか、実 はキリがない話です。少なくともみなさん、手術時には同意書を書いてもらっていると思いますが、しかし、これだって数十年前には、決してすべての病 院で行われていた習慣ではありません。 同意書の導入は患者さんの権利意識が高まる中で、医療側が自分も守るために進めた一面はありますが、果たしてどこまで法律的な根拠があるのかどうかも、実は曖昧な代物です。もちろん同意書は医 療者側が、説明を行ったという証拠にはなりますが、説明していても何か生じた場合に免罪になるわけではありません。
例えば、採血に同意書はいるの?とか、逆まつ毛 を抜くのだって、侵襲を伴う医療行為じゃないかとか、今は笑っていられるようなことでも、将来、本 当に同意書が必要になるかもしれません。「先生を 信頼して、すべてをお任せします。」といった時代に は、医療者側の努力の有無にかかわらず、戻れないことだけは確実です。
また最近は、患者さんを診察したデータは患者さ んの個人情報なので、その内容については患者さん自身に権利があると主張する方もいらっしゃるようです。そのうち眼底写真にだって肖像権を言い出しかねません。そうなると学術活動にも支障をきたしてくるのは目に見えています。
そんな中で、ある程度の医療行為や、患者さん本人に負担がかからない学術活動については、事前にまとめて同意を取得しておこうというのが包括同意という考え方です。特に以前は大学病院を中心に、 採取した血液や病理検体を保管しておいて、将来の研究に備えるということは広く行われていたと思い ますが、現在は患者さんの同意を得ないで検体を二次利用することはできないというのが、一般的な見 解です。
当院眼科外来で、今年半ばから導入した包括同意書は、学生実習・カルテ情報の研究利用・検体の二次利用の3つの項目についてそれぞれ同意をとる形 にしました。初診で受診した患者さんに関しては 100%、再診患者さんからも、少しずつサインしていただいています。
もちろん、包括同意をいただいても、個別の臨床研究に、院内の委員会の承認が必要なことに変わりありませんし、新たな研究を始める際に、資料を提供した患者さんへの情報提供も必要となります。
包括同意書を導入して5か月が経過しましたが、 再来患者さんを含めて8割くらいの患者さんで同意 書が取得できています。本来は、病院の受付ですべて同意をとってしかるべきだとも思うのですが、残念ながら個別の科に対応が任されていますので、患 者さんはかかる科が増えるたびに、同意書が増えていくという気の毒な状況にあります。
なるべく、医療者側、患者さん側に負担の少ない方法で、患者さんの権利を守りつつ、そして臨床研究に従事する医療者を無用な誤解から守るよう、これからも新たな外来システムを模索していきたいと 思います。
2016年1月記