楽しい留学生活 ~カリフォルニア編~ 加瀬 諭(13号2008年8月発行)
はじめに | |
Ryan教授の研究室 私の在籍しておりますStephene J Ryan教授の教室では、網膜色素上皮細胞(RPE)の基礎研究、増殖硝子体網膜症や脈絡膜新生血管(CNV)、網膜新生血管の発生メカニズムを中心に研究を行っております。Ryan教授は非常に背が高く、声が奥深く、紳士的な指導者です。研究室には東洋人が多く、中国人、インド人が数名おります。私の直接の指導教官はDavid R Hinton教授で、写真後方中央の背の高いカナダ人がそうです。RPEを培養し、種々の成長因子で処理して、蛋白質やRNAの発現解析を行っております。RPEにおける血管新生因子VEGFの発現制御機構の解析も行っております。培養細胞で確認された現象を、今度はマウスにレーザー誘導CNVを作製し、解析しております。一方、マウス酸素誘導網膜症の作成も学んでおります。これはヒトでは未熟児網膜症、糖尿病網膜症のモデルとして有名です。このラボの問題点としては、実験を全て自分でしなくてはならないことです(当たり前のことかもしれませんが)。マウスの凍結未染色標本は、クリスというPhDの方が作ってくれます。一日でできることは限られており、実験がなかなか進まないですし、一つのプロジェクトを終結し、論文にするまでには相当時間がかかりそうです。 | |
右がRyan教授 | |
研究室のメンバーと。右から2番目が私。 | |
ラオ先生の病理検討会 大野先生のご紹介により、ドヘニー眼研究所の病理で有名なNarsing A Rao教授のもとで、週一回病理検討会にも出席させていただいております。木曜午前九時からラオ先生が顕微鏡の中心に座り、摘出眼球や結膜、眼窩、硝子体生検標本の病理所見を読み上げていきます。症例はロサンゼルスのみならず、カリフォルニア全土から集まってきます。ここでは毎月約100例の眼病理組織標本を診断しており、超人的な症例数です。時にはラオ先生が私に意見を尋ねてくることもあり、先生の言われることをただ聞き流すわけにいきません。信頼関係を築くのに約半年ほどかかり、現在はラオ先生の症例を用いて、RetinoblastomaやRetinocytomaの病理学的解析を並行して行っております。 | |
Rao教授との病理検討会 | |
英会話について 当初はラオ先生が何か冗談を言っても、聞き取れずに独り私だけ浮く、ということがありました。今の会話の内容がわからなくても死ぬわけではない、と開き直りました。実際聞き取れた場合でも、外国人の笑いの閾値に疑問を感じることがあります。また現地の俗語で笑いと取ることもあるようで、それは我々留学生には不要な知識かと思います。学会で外国人の発表者が何かおもしろいことを言って周囲に笑いが起こることがありますが、自分が内容を把握できなかった場合でも、落胆することはありません。堂々としていたらよろしいかと思います。外国人の聴衆で、笑っていない人もその場にたくさんいます。逆にその場でニヤニヤしている日本人の聴衆がいたとしても、何がおかしかったのか?などはマナーとして聞かないようにしましょう。 おわりに 北大眼科を代表する先生方が書かれた過去の「楽しい」留学生活の記事を読みますと、自分も若干同じ体験をしてみようかなと、思ったりもしました。しかし実際は、おそらく一年のほとんどが新しいデータの出ない不毛の日々です。大学院時代はデータや論文を投稿した際には、呑めや叫べや歌えやで節目節目を大事にしてきましたが、こちらでは帰りに居酒屋に寄って飲んで帰ることができません。私の場合、計1年半という限られた留学期間ですので、周囲の研究者のように2週間バケーションを取るとか、朝コーヒーを飲みながら英会話を楽しむなど時間的余裕すらありません。さらに論文を出せずにいる苦しさ、やりきれなさを思うと、私の留学生活がいつも「楽しい」ものではありません。残された期間、少しでも結果を残し、確たる新しい技術を習得し、みなさまと再会できたらと考えております。今後ともよろしくお願い申し上げます。(2008年2月) |