“味噌煮込みうどん”を語る上で「山本屋」の名前は欠かすことができない。しかし、山本屋には「山本屋総本家」と「山本屋本店」の2つがある。店舗数など規模的にはほぼ同じだが、歴史的には山本屋総本家の方が大正14年創業と古く、こちらが元祖のようだ。ところで、愛知県外の方が“味噌煮込みうどん”を食べてまず驚くのはその味ではなく、麺の固さである。生ゆで?と感じるほど、妙に硬くて粉っぽい。これは、茹でる工程を省いて直接土鍋に生麺を入れて調理しているためで、讃岐うどんのモチモチしたコシとは異質のものと言える。また、土鍋でグツグツ煮込んだまま出てくるので、直接食べると火傷をしてしまうほど。地元の人は、土鍋の蓋を皿代わりに使って食べているが、蓋に蒸気抜きの穴が開いていないのはこのためだ。残った汁にご飯を入れ、“おじや”のようにして食べると更に美味しい。硬い“味噌煮込みうどん”は、どうしても汁が飛び易いため、エプロンの着用は必須である。“味噌煮込みうどん”に比べ、名古屋で“きしめん”専門店を看板に掲げている店は意外と少なく、うどん屋や蕎麦屋のメニューの一つとして扱われることが多い。これは、“きしめん”が家庭でも作れる身近な食べ物である所以なのか、人気のない日陰の食べ物である所以かは不明だ。タクシー運転手に聞くと、名古屋駅の新幹線乗り場の“きしめん“が、昔ながらの名古屋きしめんに最も近く、素朴で美味しいそうだ。