前田
祇園花見小路の建仁寺近くにある日本料理店。店は大きな建物の1階にあり、清潔感のある目新しい店舗。店内は僅か10席のカウンター席しかない。この日の客の半分以上が常連客のようである。若い店主・前田さんと若い見習料理人の2人でやっているのだが、店主がテキパキと指示を出すため、料理は淀みなく出される。前田さんは木屋町の「櫻川」出身と言うことであるが、彼の料理は輪郭がはっきりとしていて、「櫻川」とは全く異なる料理を作る。
ベビーフェイスの店主はまだ38才という若さながら、実に斬新な料理を出す。本当に僕の想像を超えるような料理を次々と出してくる。どの料理も店主の気合いと言おうかパッションを感じさせる品々。あくまでも正統派日本料理という土俵の上で勝負してくるのだが、その素材の組み合わせが驚きなのである。また、どの料理も塩味がビシッと決まっていてブレがない。同じ正統派の 「旬席 鈴江(→ 京都グルメバイブル・日本料理店の頁を参照)」の料理がモネなどの万人受けする印象派の絵だとすれば、この店の料理はピカソやルソーのような当時は前衛的だと言われた絵に例えられるのかもしれない。
この日最初に出てきたのが「ユリ根羹のキャビアのせ」。ネットリと羊羹のように固められた冷たいユリ根羹に塩味のキャビアが良く合う。2品目の「天然鮎の春巻・蓼酢ソース」は、具材として鮎の身とその内蔵の塩辛「うるか」が入っており、パリッとした皮の中の塩味が効いた鮎の身が日本酒にピッタリ。3品目の「焼き茄子の煮浸しとイチジク・刻みアーモンド掛け」も一見ミスマッチのような組み合わせだが、全ての食材が素晴らしいハーモニーを奏でていた。4品目の「一塩したビワマスの刺身」は、一塩して時間をおくことで旨味が際立ち、さらにスダチが全体をキリッと引き締めていた。5品目のお椀「天然鰻の白焼きの冬瓜のすり流し」は、海で捕れたという天然鰻を揚げたの?というくらいカリッと焼かれており、それがとても香り高く、隠し味の「自家製万願寺唐辛子の柚コショウ」がほのかな酸味のアクセントとなっている。6品目の「蒸し鮑」は、蒸し鮑にトロロ芋の他、淡路島由良産の赤ウニと醤油の代わりに炊かれた海苔がのせられており、この組み合わせが新鮮なインパクトを感じさせた。7品目の「白甘鯛の蒸し物」は、蒸した白甘鯛に刻んだ松茸がのせられ、更にその上に餡がかかったもので、これも最高に旨かった。8品目の「ワタリガニのみぞれ酢・イクラのせ」も、ほぐしたワタリガニの身と大根おろし入りの土佐酢の組み合わせがサッパリとして良かった。9品目は酒のアテである「半生クチコの炙りと粉ふきイワシ」。「半生クチコ」は漁師に特注したというナマコの卵巣(クチコ)で、中がトロリとしていて塩加減もグッド。「粉ふきイワシ」は甘辛く炊かれた小さなイワシに鰹節の粉をかけたもので、これも酒のアテに良かった。10品目の「季節の野菜の煮物」の出汁は驚くほど濃厚で、この濃厚な出汁にタップリかかった針生姜が実にマッチしていた。最後の食事は、竈で炊かれた餅米100%の「松茸と栗の御飯」。松茸と栗の香りが際立ち、塩加減も絶妙だった。デザートの「フルーツとイチジクのシャーベット」はまあまあであったが、「羊羹の葛焼き」は良かった。これは恐らく、“金つば”からヒントを得たものと思われるが、水羊羹に溶いた葛を塗して焼いているので(作り方はあくまでも僕の想像です)、ハフハフと熱くとろける食感が何とも言えない美味しさであった。
ちなみに、京都の日本料理店としては珍しく生ビールを置いている点は良かったが、四つ葉のクローバー型のグラスが飲みづらかった。また、日本酒のセレクトは良かった。それにしても、この店は写真撮影が禁止なので、あの素晴らしい料理の数々をお見せすることができなかったことが残念である。さらに、この店が2014年度ミシュランで僅か1つ星の評価しか得ていないことが驚きであった。(2014年9月追加)
東山区祇園町南側570-118
電話番号:075-525-5577
定休日:日曜
営業時間:18時〜23時
予算:コース16000円、20000円(税サービス料別)
アクセス:阪急河原町駅の出入り口1を出て、四条通を鴨川・八坂神社方面に進む。京都四條南座の前を過ぎて進むと、朱色の壁の大きな建物(お茶屋一力亭)が見えるので、その角を右折。200mほど進むと左側に「祇園新地甲部歌舞演場」と「ウィンズ京都」見えるので、そのT字路を「建仁寺」の壁に沿って右折すると、一つ目の小路の右角にある。阪急河原町駅より徒歩10分。
最寄りのランドマーク:祇園花見小路、祇園新地甲部歌舞演場、建仁寺
お勧めポイント:京都若手トップの日本料理人が作る目の覚めるような斬新な料理