はすのみ
ここ20年くらいの間に、一人一皿ずつ提供するフレンチのような中華料理店が増えて来たが、銀座や赤坂、代々木上原などにある有名店も含めて、あまり美味しかったという記憶がない。良かった店と言えば、広尾の「春秋(→ 銀座グルメバイブル・中華料理の頁を参照)」や京都の「中国彩膳 にじょう(→ 京都グルメバイブル・中華の頁を参照)」、大阪の「一碗水(→ 大阪のグルメバイブル・中華の頁を参照)」くらいかも。そのようなわけで、この種の中華料理店にはあまり美味しいというイメージがなかった。しかしそんな中で、岡山という地方にありながら、この店はまさに“鄙にも稀なる素晴らしい中華店”なのである。
扉を開けると、中華料理店とは思えないシックで清潔感あふれる店内。入ってすぐ右側にテーブル席が、奥には長いオープンキッチンのカウンター席がある。ドリンクメニューを見ると、ボトルワインはスパークリングが多く(シャンパンが9種とその他が2種)、日本酒は香川県の悦凱陣 (よろこびがいじん)が中心。客と店主とのやりとりを聞いていると、店主はワインに造詣が深く、ナチュラルワインにこだわっているようだ。グラスワインの他、料理に合わせたペアリングワインなどもある。この店のメニューはお任せの1コースのみで、あらかじめ苦手なものを告げてからいただく。この日のスタッフは、調理場が2人とサービスが2人で、サービスはバイト風だが、澱みなくサービスを行っていた。調理は若い店主がほぼ一人で行っており、もう一人はサポート的な存在のよう。
コースの最初に出てきたのは、「松の実と山芋のお粥」。店主は懐石料理の心得があるのか、中華料理ではまず見られないスターターである。胃に優しく、うっすらとした塩味の中にカラスミと松の実が生かされている。続く2品目は、「赤貝の老酒漬け」。地元産の赤貝は身が厚くコリッとした歯応えがあり、寿司屋で使うようなトップレベルの素材であった。ほんのり甘い醤油と老酒の風味がお酒のアテとしても最高である。3品目は、「蒸し鶏の四川風辛味ソースがけ」。蒸し鶏は胸肉を低温調理しているのか、シットリとしている。酸味の効いた甘辛い醤油ダレに、刻みパクチーや松の実が深い奥行きを与えている。4品目は、「紅芯大根(こうしんだいこん)と干し貝柱の山椒オイル和え」。細切りにされた紅芯大根の食感と干し貝柱の旨み、山椒の痺れるスパイスが渾然一体となっている。5品目は、「真鱈の白子の春巻き」。皮はカリッと、中は火傷するくらいの熱くトロトロで、塩梅も文句なし。6品目は「涼粉(リャンフェン;緑豆のゼリー)と鮒ミンチの唐辛子餡」。豆板醤と酸味が効いた四川の川魚料理をイメージした一品。緑豆ゼリーはわらび餅のようにネットリとしており、鮒ミンチは鶏ミンチかと勘違いするくらいサッパリとして美味しい。7品目は、「穴子と香味野菜の炒め物」。薄くそぎ切りにされた地元産穴子の弾力ある食感と生姜と黄ニラの優しい香りが、まさにジャストフィット。8品目は、「自家製の干し肉の炙り」。豚バラ肉を使用しているためか、目を瞑って食べると、味付けも含めてまさに豚の腸詰そのものの味。9品目は、「紅ズワイガニの淡雪仕立て」。蟹味噌の濃厚さと卵白のフワッと感に加え、擦ったレモン皮の香りと揚げた菊芋チップスのサクサク感が、シェフのセンスを感じさせる。10品目は、「フカヒレとアワビの煮物」。フカヒレが姿煮でなかったのは残念だが、トロミのあるソースは絶妙な美味しさ。アワビも干しアワビほどではないが、旨味十分で柔らか。11品目は、「オコゼの蒸し物」。清蒸鮮魚(チンジョンシェンウィ)は、日本料理の煮魚的な甘い味付けの店もあるが、この店のソースは醤油が少なめで素材が生きている。鮮度抜群なオコゼの弾力のある皮は、アンコウの皮の様なゼリー状で、久々に美味しい清蒸鮮魚であった。12品目は、「熟成豚肉と発酵白菜の酸辣煮込み」。豚のアキレス腱を含むモモの部分なのか?コラーゲン感溢れる筋肉質で、しかも柔らかい。また、酸味のある白菜やニラ、春雨に、花椒の香りが重層感を与え、今までに食べたことのない味であった。13品目は、「牡蠣とキノコのおこげ」。酸味がなく四川風ではない。美味しいことには間違いないが、本日の中では驚きが感じられないごく普通の料理だった。これでコースの食事は終了となるが、まだ食べたい方は別料金でお好みの料理を追加することができ、麻婆豆腐を追加している常連客もいた。デザートの最初は、「杏仁豆腐」。とりける様に柔らかく、酸味のあるソースとも相まってサッパリとして良かった。デザート2品目は、「キンモクセイの香りの甘酒に浸った白玉」。白玉の中にピーナッツ餡が入った温かいスイーツである。デザート3品目は、「えんどう豆を練った宮廷菓子」。豆の練り切りと水羊羹を、いいとこ取りしたようにしっとりと滑らか。
それにしても、この店の料理はどの品もワクワク感があって美味しく、しかも洗練されている。今はまだ予約が取れるが、今後は予約の取れない人気店となることは間違いない。また、カウンター中心の店なので一人飯にも最高であり、地方店の中華とは思えないほど素晴らしい店だ。来店する度にまた新しい味に出会えそうな予感がして、この店を食べるだけに旅に出ても良いくらい魅力的である。(2023年8月追加)
岡山市北区平和町1-11
電話番号:086-238-8403(営業日の正午より予約受付)
定休日:火曜(不定休あり)
営業時間:18時〜21時
予算:お任せコース13000円
アクセス:JR岡山駅(ホテルグランヴィアやビックカメラのある東側)を出て、路面電車の走る駅前通(県道42号)を岡山城方向へ進む。ジャンカラ、三井住友銀行、三菱UFJ銀行をすぎ、次の小路(つるの玉子)を右折するとすぐ右側
最寄りのランドマーク:三菱UFJ銀行・岡山駅前支店、西川緑道公園電停
お勧めポイント:ワクワク感が感じられるハイセンスな中華
路面電車の走る西川緑道公園電停近くの小路を入ると、岡山B級グルメで人気の「カツ丼野村」があり、その隣の・・・
ココです
扉を開けると、中華料理店とは思えないシックで清潔感あふれる店内。入ってすぐ右側にテーブル席が、奥には長いオープンキッチンのカウンター席がある
アルコールメニュー1
アルコールメニュー2。ボトルワインはスパークリングが多く(シャンパンが9種とその他が2種)、日本酒は香川県の悦凱陣 (よろこびがいじん)が中心。客と店主とのやりとりを聞いていると、店主はワインに造詣が深く、ナチュラルワインにこだわっているようだ。グラスワインの他、料理に合わせたペアリングワインなどもある
コースの最初に出てきたのは、「松の実と山芋のお粥」。店主は懐石料理の心得があるのか、中華料理ではまず見られないスターターである。胃に優しく、うっすらとした塩味の中にカラスミと松の実が生かされている
地元産の赤貝は身が厚くコリッとした歯応えがあり、寿司屋で使うようなトップレベルの素材であった。ほんのり甘い醤油と老酒の風味がお酒のアテとしても最高である
3品目は、「蒸し鶏の四川風辛味ソースがけ」。蒸し鶏は胸肉を低温調理しているのか、シットリとしている。酸味の効いた甘辛い醤油ダレに、刻みパクチーや松の実が深い奥行きを与えている
4品目は、「紅芯大根(こうしんだいこん)と干し貝柱の山椒オイル和え」。細切りにされた紅芯大根の食感と干し貝柱の旨み、山椒の痺れるスパイスが渾然一体となっている
5品目は、「真鱈の白子の春巻き」。皮はカリッと、中は火傷するくらいの熱くトロトロで、塩梅も文句なし
6品目は「涼粉(リャンフェン;緑豆のゼリー)と鮒ミンチの唐辛子餡」。豆板醤と酸味が効いた四川の川魚料理をイメージした一品。緑豆ゼリーはわらび餅のようにネットリとしており、鮒ミンチは鶏ミンチかと勘違いするくらいサッパリとして美味しい
7品目は、「穴子と香味野菜の炒め物」。薄くそぎ切りにされた地元産穴子の弾力ある食感と生姜と黄ニラの優しい香りが、まさにジャストフィット
8品目は、「自家製の干し肉の炙り」。豚バラ肉を使用しているためか、目を瞑って食べると、味付けも含めてまさに豚の腸詰そのものの味
9品目は、「紅ズワイガニの淡雪仕立て」。蟹味噌の濃厚さと卵白のフワッと感に加え、擦ったレモン皮の香りと揚げた菊芋チップスのサクサク感が、シェフのセンスを感じさせる
10品目は、「フカヒレとアワビの煮物」
フカヒレが姿煮でなかったのは残念だが、トロミのあるソースは絶妙な美味しさ。アワビも干しアワビほどではないが、旨味十分で柔らか
11品目は、「オコゼの蒸し物」。清蒸鮮魚(チンジョンシェンウィ)は、日本料理の煮魚的な甘い味付けの店もあるが、この店のソースは醤油が少なめで素材が生きている。鮮度抜群なオコゼの弾力のある皮は、アンコウの皮の様なゼリー状で、久々に美味しい清蒸鮮魚であった
12品目は、「熟成豚肉と発酵白菜の酸辣煮込み」
豚のアキレス腱を含むモモの部分なのか?コラーゲン感溢れる筋肉質で、しかも柔らかい。また、酸味のある白菜やニラ、春雨に、花椒の香りが重層感を与え、今までに食べたことのない味であった
13品目は、「牡蠣とキノコのおこげ」。酸味がなく四川風ではない。美味しいことには間違いないが、本日の中では驚きが感じられないごく普通の料理だった。これでコースの食事は終了となるが、まだ食べたい方は別料金でお好みの料理を追加することができ、麻婆豆腐を追加している常連客もいた
デザートの最初は、「杏仁豆腐」。とりける様に柔らかく、酸味のあるソースとも相まってサッパリとして良かった。ここから写真を撮り忘れたが、デザート2品目は、「キンモクセイの香りの甘酒に浸った白玉」。白玉の中にピーナッツ餡が入った温かいスイーツである。デザート3品目は、「えんどう豆を練った宮廷菓子」。豆の練り切りと水羊羹を、いいとこ取りしたようにしっとりと滑らか